「 思考の流暢性」の
発見
思考の流暢性とは、考える速さでそのままタイピングできる能力であり、思考のスピードがそのまま文字になる状態を指します。思考の流暢性(りゅうちょうせい)の視点は、認知科学、教育心理学、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションの研究による知見から明確になりました。
1.認知科学・教育心理学からの裏付け
「思考の流暢性」は、作文やレポートを「書く」研究から生まれました。
- 作文で文字の形や漢字を書くことにかかりすぎると、「何を、どう書くか」に脳を使えず、文章の質が低下することが分かっています。
- これを文字入力に当てはめると、文字入力のスキルが低いと、思考が中断され、表現が途切れることになります。つまり、キーボードが思考のボトルネックになります。
- 文字入力スキルが高いと「何を表現するか」に集中できます。(=思考の流暢性が保たれた状態)という結論に至りました。
2.行政・政策における「危機感」
① 平成25年調査の衝撃
文部科学省の平成25年(2013年)文字入力調査で、小学生の平均入力速度が5.9字/分という極めて低い水準にあると判明しました。
文章を考える速さに比べて入力速度が遅く、児童にとって端末が「文房具」としてではなく、「思考の邪魔をする道具」になっていることが分かりました。
文部科学省 情報活用能力調査結果 第4章 4-5-2
② CBTの普及
高校入試や大学入試、全国学力調査のCBT化が進む中で、文字入力スキルが低いと時間内に表現できず低い評価を受ける問題が生じます。
公正な評価を受けるには、「思考の結果を時間内に表現できる速さ」が必要で、文字入力スキルの目標を40字/分や60字/分にする根拠となりました。
文部科学省 情報活用能力調査結果 第4章 4-5-2
3.文字入力スキルは、絶対に必要な基盤的スキル
「思考の流暢性」は、「デジタル社会において、すべての子どもが公正に評価され、質の高い学びを享受するために、絶対に必要な基盤」として文部科学省の核心的な政策課題となりました。
4.CBTの普及
2027年度からは、「全国学力テストの小学校・中学校の全教科」でCBT方式への全面移行が予定されています。文字入力スキルが低いと時間内に表現できずに低い評価を受ける問題が生じます。このため「文字入力スキルの育成」が、どの自治体でも放置できない課題と認識され始めています。
小中学校でのCBT化と同じように、国家試験でのCBT化も進みます。司法試験の記述式のCBT化は、2026年度から開始が決定していますが、次の分野でも検討が進んでいます。
- 司法試験(2026年度から開始が決定)
- 公認会計士試験(記述式で可能性が高い)
- 医師国家試験(2026年末をめどに具体的な方向性を取りまとめ中)
司法試験等CBTシステム(体験版)R7.R8
5.文字入力スキル育成の標準的カリキュラムを目指して
「書き方」には、すでに守るべき型があります。たとえば、筆順や鉛筆の持ち方です。こうした基本は全国で共通して教えられ、文化として定着しています。
一方で「打ち方」は、まだ「教育課程における標準」の地位を確立できていません。タイピングには、本来「ホームポジション」を基本とした正しい方法があります。しかし実際の現場では、「とりあえず打てればいい」という自己流のまま使われていることも少なくありません。
また、「書き方」は国語の授業の中でしっかり時間が確保されていますが、タイピングは多くの場合、「授業で端末を使う中で自然に身につけるもの」として扱われています。その結果、体系的に学ぶ機会がほとんどないままになっています。
こうした状況の中で、2027年度のCBT化を控え、「タイピングの遅さが学力測定の邪魔をしてはいけない」という危機感からようやく指導の必要性が叫ばれ始めました。「キーボードでの文字入力スキル」を学校教育でどう教えるかという標準的なカリキュラムの確立が求められていると言えます。