文字入力標準的カリキュラムを目指して
- キーボード「打ち方」の提案
キーボードが文房具に
私たちは学習端末が「文房具」になる新しい時代にいます。ここでは、学習端末のキーボードの「打ち方」について考えます。
「書き方」には、筆順や持ち方の「守るべき型」が確立され、「親指・人差し指・中指で…」と全国共通の指導法があり、国語の一部として明確に時間が確保されています。
一方、「打ち方」は、まだ「教育課程における標準」の地位を確立できていません。タイピングには、「ホームポジション」を基本とした指導方法がありますが、現場では「とりあえず打てれば」と自己流も放置されています。タイピングは「各教科で端末を活用する中での付随的なスキル」とみなされがちです。
そうした中で、2027年度のCBT化を控え、「文字入力の遅さが学力測定の邪魔をする」危機感からようやく指導の必要性が叫ばれ始めました。 文字入力の教え方「標準的カリキュラム」に光が当たってきたと言えます。
ここでは、日本ビーコムが考案した「標準的カリキュラム」を提案します。
- 練習する全てのキーの手形の手本の準備
- 練習の順序:ローマ字入力練習 → 変換練習 → 文章練習 → 半角入力練習
- 日本語入力システムを順序よく練習する:確定、改行、空白、変換、文の区切り
- 日本語入力システムの練習を自動採点し結果を即表示し、記録する:誤字、余字、脱字、正しい入力、正解率、速さ
この「標準的カリキュラム」で構築したシステムは、次のとおりです。
| 自治体、学校 | パソコン教室 | 個人 |
|---|---|---|
|
|
|
世界一複雑な表記方法を用いる日本文
日本語は、ひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字という複数の文字体系を使い分ける、世界的にも特異な表記体系を持っています。世界一複雑な表記法の日本文入力の「標準的カリキュラム」づくりも困難で、工夫と確かな方針が求められます。
標準的カリキュラム
「標準的カリキュラム」の練習順序は、次の通りです。
ローマ字入力練習 → 変換練習 → 文章練習 → 半角入力練習
まず、ローマ字入力の練習をします。ローマ字入力の練習に当たって、教科書のローマ字表では入力できない文字があります。どのような不都合があるのでしょうか。
小学校の教科書にあるローマ字の表では、ヴェニス・ヴァイオリン・ヘディング・ウィスキーなどが入力できません。
小学校の教科書 大阪書院 四年生国語より
左の表は、1991年内閣告示の『外来語の表記』で、外来語のほか外国の地名・人名の表記のための文字(13字)です。
右の表は、外来語や外国語の地名・人名などを原音や原つづりになるべく近く書き表そうとする場合に用いる文字(20字)です。この33字は小学校のローマ字表で表すことができません。
ローマ字は、アルファベット21字と「ー」で
VとLを使うと外来語で使われる33字が入力できるようになります。長音の記号「ー」も必要です。
外来語や外国の地名を入力できるローマ字の表は、次のようになります。
ローマ字入力に必要なアルファベットの数は21字です。
あ い う え お や か さ た な は ま ら わ が ざ だ ば ぱ ゔ ぁ
A I U E O Y K S T N H M R W G Z D B P V L
ローマ字入力に必要な記号の数は1字です:「ー」
練習は、ローマ字50音表の順に進めます。
アルファベット21字と記号「ー」を使い、ローマ字入力から練習します。アルファベット21字には Q X C F J がないため、「A ~ Zすべて」を使う練習よりもやさしくなります。
「書き方」は、手本を見て「ゆっくり」「丁寧に」練習します。「速く、速く」と急ぐと、好ましくない癖がついてしまいます。「打ち方」も同じです。慣れないうちに急ぐと、好ましくない癖がついてしまいます。
1.指ならしの練習
指をホームポジションに置き、目的のキーを正しく押す練習を行います。指を動かす方向や距離に慣れ、キーボードの位置を自然に覚えることが目的です。これにより、指をスムーズに動かせるようになります。
ローマ字入力で使うアルファベット21字を、「ホームポジション」「人差し指」「中指・薬指・小指」に分けて練習します。
ホームポジション 5字
ローマ字入力のアルファベット21字の内、A S D K L 5字を打つことができます。
人差し指で打つキー 10字
ローマ字入力のアルファベット21字の内、左指でR T G B V 5字、右指でU Y H N M 5字を打つことができます。
中指、薬指、小指で打つキー 6字
ローマ字入力のアルファベット21字の内、左指:中指E 1字/薬指W 1字/小指Z 1字、右手:中指I 1字/薬指O 1字/小指P 1字で、1字ずつなので、覚えやすいです。
2.ローマ字50音の練習
「か=ka」「し=si」といった文字の仕組みや入力ルールを覚えます。キーの押し方を練習する基礎練習と、日本語入力システムを使った実践練習を組み合わせて練習します。
ローマ字50音は、次のメニューで練習します。
基礎練習:キーの「押し方」を練習
日本語の文字とアルファベットの対応を理解し、ローマ字入力のルールを覚えます。正しいつづりで入力できるように練習します。小学3年生でも、ローマ字入力が理解できます。
実践練習:日本語入力システムを使う練習
日本語入力システムを使い、問題文を入力欄に入力する練習をします。「あいうえお」と入力し、実際の入力方法に慣れます。基礎練習の内容を生かしながら、実用的な入力を身につけます。
「あいうえお」と入力し、未確定の状態をEnterキーで「確定」します。あいうえおの入力の練習と併せて、EnterキーをInsert「確定」と「改行」に、使い分ける練習をします。
基礎練習「あ・や行」「かさたな」「はまらわ」…をそれぞれ行い、その都度、実践練習に取り組みます。のびる音「ー」まで練習したら、変換の練習に進みます。
先生の代わりの「ガイド機能」
先生も授業では一人ひとりの子どもの横で教えることが出来ません。横にいるように、先生の代わりに教えるガイド機能を備えています。
3.変換の練習
漢字変換の練習
ローマ字入力で入力したひらがなを漢字に変換する練習をします。
変換の仕方はガイド機能で説明します。
変換の仕方のガイド
文の区切りの練習
同じ読みでも、変換する位置で内容が変わります。
例えば「ここではきものをぬぐ」は、「ここで/はきものを」と区切ると「ここで履物を」、「ここでは/きものを」と区切ると「ここでは着物を」と変換されます。
このように、適切な文節の区切りを理解することが大切です。文章の入力では、効率よく変換するために文節の区切りを意識することが重要です。
4.文章基礎練習
「変換の練習」の次は文章入力の効率を上げる練習をします。文章基礎練習としてまとめています。
「 、 」と「 。 」の練習
まず、「 、 」と「 。 」の練習をします。「わたしは、きょう、がっこうへ行きます。」のように、「 、 」のあとでスペースキーを押して変換すると、変換ミスが少なくなります。文の最後の「 。 」も区切りなので、そこで変換してもよいです。
よくでてくる言葉の練習
文字入力が正確で速くなるのは、打ちにくい間違いやすいキーは、丁寧に打ち、よくでてくる言葉をさっと一気に打つことで速くなります。「その」、「いました。」などよくでてくる言葉を一気に打てるように練習をします。
かなづかいの練習
通る を 「とうる」として変換すると「と売る」となります。先生 を 「せんせえ」として変換すると「センセ絵」となります。読みを間違えて、修正すると効率が悪くなります。入力するときは、仮名遣いを注意して入力する必要があることを学びます。
変化する言葉の練習
「言う」は「言わない、言います、言う、言うとき、言えば」のように変化します。変化する言葉を練習すると、効率よく入力できるようになります。変化する形の練習をしてしゃべるように入力できる練習をします。
文章練習
文章基礎練習のまとめた文章練習です。文章入力の大切な要素を一つの文章にまとめています。繰り返し練習することで、文章を効率よく入力する練習ができます。
5.豊富な文章問題で練習
ローマ字入力、変換練習、文章基礎練習を終えたら、文章練習へ進みます。70字から850字まで、90問弱の豊富な問題を準備しています。
文章練習問題(例)
低学年の子どもでも高学年向けの文章練習ができるように、問題にはルビをふっています。
「採点する」ボタンを押すと、問題文と入力文を比較して、誤字、余字、脱字を自動採点した結果が表示されます。入力時間、入力速度、も表示されます。
誤字は、問題文と入力欄の間違った字が赤色で表示されます。
余字は、問題文にない余分の字が水色で表示されます。
脱字は、問題文にあるのに入力しなかった字が緑色で表示されます。
入力文字数: 220(改行も文字数に数えます) 正解: 216 誤字: 3 余字: 1 脱字: 1 削除回数: 1 (入力中に消した文字数) 入力時間: 2分34秒 入力速度: 84字 (1分の入力文字数) 正解率: 96.4
打ち方のまとめ
- ホームポジションから指を動かす練習
- 正しい手本でのローマ字50音の練習
- 日本語入力システム(IMEなど)を使う練習
- 文章を入力する基礎練習
- 短い文から長い文章へ、文章入力の練習
「打ち方」は、文字の正しい入力の学習(練習)から順序よく文字入力の力をつけるカリキュラムになっています。
情報活用能力の体系
「教育の情報化に関する手引」の「情報活用能力の体系」を図にすると次のようになります。「打ち方」は、この体系のように発達段階に沿って力をつけるカリキュラムになっています。
教育の情報化の手引に例示された「情報活用能力の体系」
日本文の入力から発展的な練習へ
「打ち方」は、850字までの日本文の入力の練習をする事ができます。更に、半角での英文やプログラムの入力の練習ができます。
小学生に、英文入力の練習が必要か議論が分かれます。しかし、「打ち方」で多くの児童が、Shiftキーでアルファベット大文字を打ち、数式や記号を入力できるようになっています。子どもが望むなら子どもの可能性を広げる半角英数記号の入力の練習機能をシステムで準備するのは好ましいと考えます。
アルファベットの小文字の練習
アルファベットの大文字の練習
最上段 数字の練習
最上段 記号の練習
右手で打つ記号の練習
右手で打つ記号(+Shift)の練習
英文入力の練習
数式入力の練習
プログラム入力の練習
打ち方のまとめ(発展版)
- ホームポジションから指を動かす練習
- 正しい手本でのローマ字50音の練習
- 日本語入力システム(IMEなど)を使う練習
- 文章を入力する基礎練習
- 短い文から長い文章へ、文章入力の練習
- 英文やプログラムの入力につながる発展的な練習
子どもたちへ「打ち方」を!
次のグラフは、紹介した情報活用能力調査の結果で、1分間に40字以上入力できるグループに、赤枠をつけました。
情報活用能力調査 結果報告(令和5年3月) P50
調査に使われた文章と類似の文章です。
問題文から練習が必要な文字種類は以下のとおりです。
- ローマ字入力で漢字、ひらがな、カタカナが入力できる
- アルファベットが入力できる
- 半角の数字や記号が入力できる
日本語入力システムを正しく使う力が求められています。
文字入力の指導の真の課題
情報活用能力調査によると、小学5年生の平均入力速度は15字/分であり、目標の40字には大きな差があります。
この差の背景には、次の2つの指導の不足があります。
① 基本を守った操作の学習
- ホームポジションの理解
- 正しい手や指の構え
- 基礎練習から実践練習への段階的な指導
② 日本語入力システムを使う学習
- 変換の仕組みの理解
- 文字種(漢字・かな・記号)の使い分け
これらは、鉛筆でいう「書き方」と同じ、文字入力の基礎・基本です。しかし現在、この基礎指導が十分に行われているとは言えません。時間をかけて確立された「書き方」のように、「打ち方」も時間をかけて作り上げる必要があります。
「打ち方」のシステムが多くの学校で使われ、意見を頂きシステムの改良を続けることができたらと希望します。また、使い方の情報交換も必要です。そうして、5年、10年後、だれもが認める「打ち方」につなげたいと思います。
1人1台学習端末を子ども達が文房具として使う時代を目前にしています。子ども達の基盤スキル「打ち方」の確立のために、多くの先生方のご指導を、ぜひご一緒に進めていきましょう。